アポロ13はヒーローたちの物語

アポロ13は最も好きなドキュメンタリーです。新潮文庫版は二冊ほど本をダメにしてしまい、今持っているのは三冊目ですが、何度読んでも引き込まれます。僕にとってこれ以上はない最高のドキュメンタリーです。

謎の爆発、そして宇宙飛行士や地上管制官、周辺で働く人たち、その家族たちの奮闘。

著者がアポロ宇宙船の船長だけあって、当時の状況がこれでもかこれでもかと克明に描かれているし、だからこそ鬼気迫る総力戦に僕も手に汗握るのです。

   

さて、内容は読んでもらうとして、この本で最も感動したのは、アメリカの凄さ。

どれだけの叡智が結集したのだろうと思わずにはいられません。NASAの凄さは漠然とわかっていたような気にさせられていたのですが、この本を読んでまず思ったのが、その叡智です。

パソコンのOSもそうなのですが、これほど複雑怪奇な仕組みを作り上げる才能は、他の国にはないアメリカの凄みだと思います。アメリカ以外にはできそうもない、本当に細かな仕組みづくり。当時の僕は(サヨクメディアの洗脳もあって)アメリカ人は大雑把なジャイアンというイメージがあったのですが、この本で見事にひっくり返されてしまいました。実は才能実力ともにピカイチの職人集団の国ではないのか?と。

ありとあらゆる可能性を検討し、そして実際に実行する。これはほとんどの国も人もできないことです。検討時点で頭でっかちになってしまうから。

しかし、アメリカという国は実行を恐れない。失敗を本当に恐れない国なんだと痛感しました。失敗は織り込み済み。そこには人として国としてのたくましさを感じます。間違ったら?やり直せばいいじゃないか!hahaha!

ほら見ろ!俺のいう通り失敗したじゃねぇか!ばっかじゃねーの!

じゃないのです。そんなチンケな国も人もいっぱいいますよね。僕の大嫌いなサヨクなんて全員がそう。

けど、アメリカはそうじゃない。やっちまったものは仕方ない。これを次にどう活かすかを考えようじゃないか!失敗したらそこで終了じゃなくて、そこからどう立ち直るか、どうてて直すか、どう活かすか。

だから僕はアメリカが好きです。間違ったこともいっぱいするけど、そこから本当に学ぶ。

それがアメリカの凄みです。

  

アポロ13でさらに僕が好きなのはその国民性。

謎の大爆発が起きた時、関係者はどうしたのか?というと、恐るべきネットワークで各自がやるべきことをやったのです。奥さん同士はみんなで集まり支え合い、夫は「なんでもいいから役に立ちたい」とそれぞれの職場に出向き、それぞれができることをしたのです。一見なんの関係もないような職人が管制室に行って大仕事を成し遂げる場面があるのですが、まさに

古き良きアメリカ

って感じで感動しました。僕はまさにこれがアメリカだと思いました。誰彼なく、男女の区別なく、各自がそれぞれ自分のできる範囲で最善を尽くそうとしたのです。

確かに建国に際してはいろいろなマイナス面があった国です。黒人奴隷。インディアン迫害。原爆投下もしたし、戦争もした。常にそういうネガティブイメージがつきまとう国です。

けど、それにも関わらず、僕はアメリカという国を否定する気は毛頭ありませんし、アメリカ人を信じてもいます。僕はその国というのはそこに住む国民の総意でできているのであって、そこに生きる人たちはやっぱり特有の色があると確信しています。日本人は日本人らしいしイギリス人はイギリス人らしい。そしてもちろんアメリカ人もアメリカ人らしいのです。

ひどいこともしてきているアメリカなのに、なぜかアメリカ人はおおらかで忍耐強く、アイデアマンで家族思い。そういう古き良きアメリカって感じがいまだにするのです。

アポロ13でもそれは余すことなく描写されています。夫の帰りを待つ妻の「詳しいことは夫に聞いてください!」にはアメリカ人の凄さを感じずにはいられませんし、困ってるから助けてやれという優しさや、俺にも何かできることはないかという献身にもアメリカ人を感じずにはいられません。

今は左方向にぶれすぎておかしくなってるように見えるアメリカですが、きっと立ち直るでしょう。そうなれば、潜在能力のある国なので大丈夫。

    

もちろんこの本の著者はエリートに属しているし、だから物語も所詮はアメリカの一部のエリート層の話なのであって、庶民はそうじゃないって意見もあるかもしれませんね。

けど、僕はそうは思いません。何度でも言いますが、国は国民で成り立つものであり、結局は

そこに住む国民がどうか?

という話に全て帰結すると確信しています。エリート層の下にいる人たちがいるからこそエリート層もいるのです。彼らはアメリカから独立している別の国の人たちではないのです。エリートたちもやはりアメリカ人。さまざまに影響を受けてエリートになっているのです。

言い方を変えるなら、エリートが育つ土壌。それぞれの国でこの土壌は違います。そしてエリートは土壌の中から育つのです。肥沃な土壌からは素晴らしいエリートが、スッカスカの土壌からはチンケで役に立たないエリートが巣立つことでしょう。

   

最後ですが、アメリカ人のヒーロー願望もこの本からは垣間見えました。僕は全然悪くないと思います。誰しもがヒーローになりたいのです。そのために自分を捨てる。これはすごいことですよ。栄光ある失敗とはよくぞ名付けたものです。

確かにそうです。大失敗だった。けれども、そこから多くのものが生まれました。チンケな表現ですが、全員がヒーローになりました。失敗したのにパレードも納得です。

なぜなら「成し遂げたから」。

やりきる。これは本当に難しいことです。特に失敗したあとは、投げやりになりませんか。もうどうでもいいと。失敗したら烙印を押して弾き出してやしませんか?

投げやりにならず、やり切る。まさにヒーローの条件です。

羨ましさすら感じます。

アポロ13は実はヒーローたちの物語なのです。だからこんなにも引き込まれるんだなぁ。