世界がスローモーションになるとき
小学生の頃、事故を目撃したのです。
それはいきなりで、とある道路を横切ろうとしたどこぞのおばちゃん自転車に車が突っ込んできたのです。もちろんド派手に衝突。僕はそれをはっきり思えているのですが、不思議なもので、衝突する瞬間、確かに全てがスローモーションになったのでした。
なんかふわふわするその世界で、そのどこぞのおばちゃんの太ももがあり得ない方向にゆっくりとひん曲がっていくのです。
あーすごい!
と思いながら僕はただそれを見ていました。その僕にもわっとするものが飛んできたのですが、後から見ると、それは壊れた自転車の部品で、本当に僕の顔のすぐ横を掠めて飛んでいったのです。
スローモーションは、おばちゃんの悲鳴とともに唐突に終わりました。途端に世界は騒がしくなり、人が集まり、やがてパトカーやら救急車やらがやってきましたが、その後についてはもちろん覚えていません。
自分の運転する車がいきなり追突されたこともあります。
本当にいきなりでした。
ものすごい衝撃音と共に、いきなり世界がスローモーション化。ゆっくりと、けど確実にスピンしているのです。僕は思いました。
ああ、これから僕は死ぬんだな。いきなりなんだな。
車はゆっくりとクルクル回っています。不思議なことに、外の景色が割とはっきり見えました。ガソリンスタンドから車が出てくる場面も見えました。そうやってまわりながら、道路のわきの田圃の脇にある用水路に落っこちました。ものすごい衝撃!そしてその衝撃でスローモーション終了。
僕は生きてました。口の中がジャリジャリしました。ペッと吐き出しました。運転席のドアがあり得ないほど変形して壊れていて、窓ガラスも粒々の粉々。多分この窓ガラスが口に入ったのでしょう。当然ドアは開かず、シートベルトも食い込んだまま。レスキューが来るまで、僕はただただぼんやりとしてるしかありませんでした。
なんだ?何があったんだ?
あとで警察署で知ったのですが、(詳しくは伏せますが)どこぞから逃げてきた男が車を盗み、その盗んだ車で暴走中に運転を誤って僕の車に追突したそうでした。あんたよく生きてたね。なんて言われちゃいました。
不思議なことに、ひどい鞭打ちで1週間寝込んだものの、それ以外はどこもなんともなく。けど僕の車は廃車となりました。
恥を晒しますが、一度僕は自分の車を相手にぶつけたこともあります。けど、不思議なもので、その時は別に世界はスローモーションにはなりませんでした。
冬道でスリップして追突という、冬道初心者にありがちの事故でしたが、幸いなことにそこまでひどい追突ではなかったので、穏便にということになりました。
最近は、というより、車をぶつけられた時以後に、世界がスローモーションになったことはありません。
多分、次に世界がスローモーションになるのは、僕が死ぬ時じゃないかなと思っています。
あまりわくわくしませんし、見たいとも思いません。
そうそう。一度、走馬灯のようなものを見たこともあるのですが、それはいずれ違う時、ネタに困った時に書くことにします。