ウルトラ警備隊西へ!

   

ウルトラセブンは本当に傑作ですが、その中から無理やりナンバーワンエピソードを選ぶとしたら、僕なら「ウルトラ警備隊西へ」です。

今のレベルなら、この前後編だけで映画2本作ってしまうレベルの物語の濃さが、ぎゅっと1時間以内に収まっているからです。

サスペンスな展開から始まり、謎が謎を呼び、そして驚くべき事態が明らかとなり、正義のヒーローが大ピンチに見舞われるが、知恵と能力を結集した結果、無事解決!

これだけでお腹いっぱい。小説にしたら分厚い前後編の2冊になるレベル。

シリアスな展開からカタルシスの結末に向かう演出は過不足なく、特に前編の最後なんて、おそらくはこれを見た全国の子供の心を鷲掴みしたことでしょう。

当然まだ幼かった僕の心も鷲掴みされてしまい、

ああ、セブンはどうなってしまうんだろう?
敵のロボット強すぎ!

後編の放送が死ぬほど待ち遠しかったものです。

  

さて、ウルトラセブンに関しては、僕は長年違和感を持っていました。いや正確にはセブンではなく、セブンを取り巻く思想に違和感を持っていました。

具体的には、脚本家の金城哲夫さんが沖縄出身ということで、周りがやれ反戦だ差別だという思想を持ち出す「批評」に対して違和感があったのです。

本当にそうなのか?と。

https://ja.wikipedia.org/wiki/金城哲夫

上原をはじめとした円谷プロ時代の金城を知るスタッフの幾人かからは円谷プロ時代の金城に関する沖縄出身云々といった考察については否定的な見解が示されている

僕は当事者ではありませんが、やはりそう思います。

ウルトラマンに比べて、セブンはとてもシリアスな作品になっていますが、それはウルトラマンとは違った表現がしたいという製作者たちの思いだったのだのではないかと思うのです。元々しがないデザイナーであった僕にだってわかります。

僕ごときであっても、やっぱりマンネリ化すると違うことがしたくなりました。袋文字はもうやめたいとか。Windowsのフォントはダサすぎるから変えたいとか。少ないインク量でいかにデザインするかというのは田舎の貧乏デザイナーなら誰もが思うこと。しかし、たまにはインク量を気にせずパーっと思うままにデザインしたくもなるのです。ベタで真っ赤にしてやろうとか。

ウルトラマンで散々陽をやり尽くしたのだから、後のセブンは陰をやりたい!

そう思うのは当然だと思うのです。実際とてもシリアスな話がセブンには多いですよね。

けど、それはあくまでも陰陽の陰なのであって、最初から「虐げられた」とか「反戦」とかではない。

そもそも金城哲夫さんはウルトラQやウルトラマンも手がけていたのです。エンターテインメント志向だったのです。子供向けのみならず、大人向けの本格的なドラマも手がけたのは、エンターテインメント志向だから。

つまりは多芸多彩な脚本家だったのです。

  

「ウルトラ警備隊西へ」ではペダン星と地球との駆け引きが描かれていますが、ことは単純な構図ではなく、物事は話し合いではすまないという現実が生々しく表現されています。

平和的な解決なんて、所詮はお花畑。ペダン星人に騙されたダンの進言に周りは懐疑的で、しかしそれが功を奏したのです。相手には相手の立場があって、要は利害が一致しないと話し合いなんてできない。

ペダン星に送り込んだ観測用ロケットの負い目があることから、弱腰になるかと思ったら、それなりに「こうなったら戦うしかない!」と気持ちを切り替えるあたりは流石にウルトラ警備隊の隊長という演出はさすがですね。

単純な善と悪の対比から踏み込んで、お互いに立場があるのだという構図は、決して「差別」だの「反戦」だのから来たのではなく、エンターテインメントの一環。

その証拠に、今に至るものウルトラセブンは大勢の人たちの心を鷲掴みしてますよね!

思想のほとばしりではなく、エンターテインメント!

だから素晴らしいのです。