トマス・ハリスの最高傑作は「羊たちの沈黙」ではない
羊たちの沈黙はもちろん読んでます。映画も観てます。しかし、僕の中ではちょっと違いました。違うというのは「傑作ではない」ということです。あくまでも僕の中での話です。
確かにのちのアンチヒーローとなるレクター博士は、流石はアンソニー・ホプキンスだけあって存在感抜群のキャラクターだし、ジョディ・フォスターも演技がうまいし、物語も間延びせずに緊張感持ちっぱなしでした。
小説だってそこそこ厚いけど1冊買えばいいお手頃感だし、飽きることなく一気に読んでしまいました。つまりは実に面白い。
けど。
けど、僕の中では傑作ではないのです。
じゃあ僕の中では何がトマスハリスの傑作、それも最高傑作なのかといえば、それはずばり
レッド・ドラゴン
です。映画は2回作られていますが、どっちもダメダメ。おすすめはできません。けど小説は別です。大傑作です!ぜひとも読んでほしい作品だと自信を持ってお勧めできます。こんなに面白い小説はそうそうないというレベル。僕の中ではの話ではありますが、3回ほど買いなおして読んだくらい大傑作だと思っています。
のちのこの手の小説では当たり前の手法となり、また犯罪捜査の基本ともなっている「プロファイリング」がこの本では効果的に使われています。まだ少し「特殊能力」的な表現をされてはいますが、それは小説的なもので、物語をぶち壊すどころか、緊張感満点となっています。また、犯人に繋がる手がかりを探す捜査人の苦悩やメディアの暗躍、犯人発覚に至る経緯など、実際こうなんだろうなぁというリアリズムが実に素晴らしいのは、作者が元々は新聞記者だったことが多いに関係しているのでしょう。
何より特筆すべきは、作中を通して、犯罪者のバックボーンを克明に描いたこと。
なぜこれほどまでの残虐な犯罪を行なったのか、あるいはそうせざるをえなかったのか、生まれつき障害を持って生まれたが故の犯罪者のあまりに理不尽で悲惨な運命を、これでもかとしっかり描いているのは、当時としては画期的だったし、だからこそ僕は多いに感情移入しました。悲惨であるが故に「大いなる力を得たい」と願う気持ちが犯罪に走らせるののです。
多感な学生時代にこの小説を読んで衝撃を受けた僕ですが、今でもたまに読み返しています。
そしてこのものすごく大好きな言葉にじっくりと浸るのです。
人は観るものしか見えないし、観るものはすでに心の中にあるものばかりである。アルフォンス・ベルティヨン